できる女は嫌われる?『LEAN IN』が示す男女のためのシンプルな生き方
今日はこの本について。
シェリル・サンドバーグ『LEAN IN』日本経済新聞出版社
FacebookのCOO、シェリル・サンドバーグが職場における男女の違い、女性の働き方、キャリアについて自身の体験と詳細なデータによって論じた1冊。
2年ほど前にアメリカで出版されて以来、話題になり世界中でベストセラーとなったビジネス書籍で、自分もマレーシアにいた際、クアラルンプールの紀伊國屋書店に何冊も平積みになっていたのを覚えている。
イスラム社会のマレーシアで平積みにされるくらい、女性のキャリア、働き方の問題は世界中で関心が高いことが伺われる。
それだけ世界で関心が高いテーマであれば、日本で売れるのも当然だろう。
自分は企業で働くある女性に進められてこの本を読んだ。
その人によれば、「女性はもちろん読むべきだが、男性も女性を知るために読むべき」とのことだった。電子書籍ですぐさま購入し読んでみると、まさしくその通りで、本の中は付箋だらけになった。
ということで、今回はこの本で自分の印象に残った点を引用しつつ、良さを伝えていきたい。(ページ数はすべてSony Readerにおけるページ数です)
データが示す職場における男女の違い
本書では、男女の違い、とりわけ職場における男女の心理の違いや、物事の受け止め方の違い、気づかないステレオタイプについて、詳細なデータを元に示している。
特にこの、男女の出世のプロセスについてのデータは興味深い。
男性はメンターやスポンサーの後押しを得て順調に出世していくが、女性は男性より努力して実力を示さなければならない。(中略)
二〇一一年のマッキンゼー・レポートにも、男性は可能性を買われて昇進するが、女性は過去の実績で昇進すると書かれている。(P.25)
この事実はかなり興味深い。もしかしたら世の中の男性は、職場以外でも、男女の能力をこういった別々の基準で評価しているのかもしれない。もしこうなっていなくても、男性も女性も上司としてこういうステレオタイプに陥らないように気をつける必要がある。
また、男女の出世意欲の差についてもおもしろいデータが示されている。
マッキンゼーが一流企業の社員四〇〇〇人以上を対象に二〇一二年に行った調査では、男性回答者の三六%がCEOになりたいと答えたのに対し、女性はたった一八%だった。(P.39)
このアンケートの結果だけで、男女の出世意欲に大きな差があるとは言えないが、幼稚園の質問コーナーでも、「大統領になりたい」と答える比率は男の子の方が多く、女の子では圧倒的に少なくなるという。
男性は幼い頃から「野心的である」ことを期待されるが、女性は幼い頃からそれは期待されない。むしろ女性にとって「野心的」という言葉は褒め言葉ではないという。
とくに女性は幼い頃から「結婚」というプレッシャーを周囲から与え続けられることで、リスクを取りづらい生き方を選んでしまう傾向にあるらしい。
最近では徐々にこの差も埋まってきているというが、社会が男性、女性、それぞれに期待するものを固定化している限りはこのような数字が出続けてしまうだろう。
女性は男性よりも自分を過小評価しがち?
女性が自分を過小評価しがちであるというデータも本書では示されている。
とりわけ女性は、自分の業績を誉められると、詐欺行為を働いたような気分になるという。自分は評価に値する人間だとは思わずに、たいした能力もないのに誉められてしまったと罪悪感を覚え、まるで誉められたことが何かのまちがいのように感じる。(P.63)
これは、ペギー・マッキントッシュ博士という方のスピーチの引用部分で、男性である自分にはよくわからない感覚だが筆者によるとこの部分はかなり核心をついているらしい。
確かに褒められるのが苦手なタイプは、女性の方が多い気もする。
また、この部分も面白い。
男性に成功した理由を質問すると、自分の資質や能力のおかげだと答えることが多い。一方女性は、自分の外に原因を求めることが多く、「努力したから」、「幸運だったから」、「大勢の人に助けられたから」などと答える。(P.66)
男性から見ても、「そうかもしれない」と感じる。また何か失敗した時も男性は外部に要因を求めるのに対し、女性は内的要因、すなわち自分の能力のなさを責めることが多いという。
どうでしょうか女性の皆さん?
それに対し自信家が多い男性
自身を過小評価しがちな女性に対し、男性は根拠の無い自信家が多いらしい。
だいたいにおいて男は女よりチャンスに飛びつくのが早いことである。たとえば新しいオフィスを開設するとか、新しいプロジェクトを始めるといったことを告知すると、男性社員はすぐさま私のオフィスのドアをガンガン叩き、いかに自分が適任かをしゃべりまくる。(中略)男性社員は、自分の能力が開発されるのを待ってなどいない。もう自分は十分できるのだ、といつも考えている。(P.75)
これは日本よりも実力社会のアメリカではそうなんだろうなーと思う。日本ではどうだろう。日本は女性でもこういうタイプはいそうだ。
ある実験が示す女性にとって不都合な真実
次に紹介する部分はこの本で一番興味深かったと同時にショックを受けた部分だ。それは実在するハイディ・ロイゼンという起業家のお話を使った実験の結果についてだ。
実験の内容はこう。
ハイディ・ロイゼンという女性起業家がどうやって成功したのかというストーリーを学生に読ませた。「強烈な個性の持ち主で~~~~~よって成功した」というような内容だ。
1つ目のグループはこのケースをそのまま読ませ、2つ目のグループには、主語を「ハワード」という男性の名前に読ませたという。
そしてその2つのグループの反応を確かめる、という実験だ。
両グループとも、能力面や実績面では両者を同等に評価した。
しかし、学生たちは、能力や実績に対しては評価したにもかかわらず、人間性の面ではハワード(男性)の方を好ましいと評価し、ハイディ(女性)に対しては自己主張が強く、「一緒に働きたくない」「自分だったら採用しない」というような、ネガティブな評価がなされたという。
できる女は嫌われる。
情報は全く同じで、性別が違うだけでここまで評価が変わる。
成功した男は男からも女からも好かれるが、成功した女は男からも女からも好かれない。
なんとショッキングなデータだろう。比較的女性の社会進出が目立っていそうなアメリカ社会でさえそうなのだから、この実験を日本でやったときにはどうなるのだろうかは考えただけで恐ろしい・・・。
もしかしたら自分も同じようなステレオタイプも持っているかもしれないし、そのよなステレオタイプで人々を評価してきたのかもしれない。結局人はステレオタイプにもとづいて他人を評価してしまうので、この種のステレオタイプは捨てるように努力する必要がある。
男と女は職場で期待されていることが違う?
ステレオタイプが根強く残っている典型的な職場では男性と女性で求められることが違うし、行動に対する評価も違うらしい。興味深かったのはこの部分。
男性が同僚の仕事を手伝ったら、相手は恩義を感じ、何らかの形で返そうとするだろう。だが女性がそうしても、相手はあまり恩義を感じないらしい。(P.95)
筆者によると、これは男性が持つ「女性は献身的であたり前」というステレオタイプによるものだという。
飲み会の席で、女子力という名の下に料理の取り分けや酒をつがせる習慣が根強く残っている日本だったらこのステレオタイプさらに強そう。
このクソみたいなステレオのタイプのせいで、女子は他人に手を貸してもあまり評価されないどころか、手を貸さなかった場合に評価がさがりやすいこともあるそうだ。
男性がそのようなことをした場合は「返礼が必要な行為」と解釈され、評価が上がったり、給料が上がるという形で報われることが多いらしい。
ぜひともこういうステレオタイプは日常からなくしていかないといけない。
また、ステレオタイプが残る職場では、男性は女性に比べ「物事に対して強く交渉する」ことが求められるが、女性がそのような交渉を試みたり、自己主張を激しくすることはあまり期待されないどころか、そのような女性は評価が下がりがちだという。
そのようなステレオタイプが強くなると、女性はますます自己主張をしづらくなるし、自己主張がしずらくなれば能力を発揮できる機会も失ってしまう。
じゃあどうすればいいの?
これまで紹介した以外にも、さまざまな不都合なステレオタイプを示すデータや、筆者自身の経験が本書では描かれている。
それくらい世の中はステレオタイプで溢れており、それが男女の働くことへの意識の違いを生み出してしまっているのだ。
ではどうすればいいのか。筆者はメンターやスポンサーの必要性を主張している。メンターとは職場におけるアドバイザー的な役割で、女性がキャリアを歩む上で、衝突しがちな悩みを共有し合える上司が職場にいることが重要であるという。
そして何よりも男性も女性も、このようなステレオタイプに陥らないように男性や女性を公正な視点で評価しなければならない。
そして男女ともに型にはまらない様々な生き方が許されるような環境が増えていく必要がある。
※この本は「女は必死に働いて、子どもも産めよ」という本ではありません
この本のタイトルは「LEAN IN(勇気を出して身を乗り出そう)」
そしてサブタイトルには「女性」「仕事」「リーダーへの意欲」
おまけに筆者Googleから転職したFacebookというイケてる会社のCOOになったスーパーキャリアおばさん(アメリカ人)っていう大半の日本の女性はドン引きしそうな経歴の持ち主。子どもも二人いる。
いくら仕事と家庭を両立したいっていう女性でも、この経歴では「所詮能力のある彼女だから出来ることだろう」と少し身構えてしまう。
自分もはじめは、スーパーキャリアウーマンのサクセスストーリーだろう。そんな意識で読んでいた。だけど、筆者が述べていたのは、「皆も自分のように生きろ」ということではなかった。
彼女は専業主婦という選択肢ももちろん認めており、尊重しているし、女性が選択肢に迷った時の考え方にたいしてさまざなヒントを与えている。
自分がスーパーキャリアウーマンとしての道を振り返ってきた時に、どのようなことが自分の子育て、仕事に影響を与えてきたのか、ということを経験とデータを元に提示してくれているのだ。
なのでどんな人でも、たとえそこまでガッツリ働く気のない人でも、男性でも女性でも読んでみて学べる点はたくさんあるように思う。
そういえば筆者は「成功」ということに対してこう述べていた。
成功を定義しなければならないとしたら、「自分にできる最善の選択をし、それを受け入れること」と私なら応えるだろう。(P.285)
人生は意思決定の連続です。そして成功は必ずしも最適な意思決定を行うことではない。意思決定に対し責任をもち、それをただ受け容れること。それが成功。
とてもシンプルだと思う。
LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲
- 作者: シェリル・サンドバーグ,川本裕子,村井章子
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2013/06/26
- メディア: ハードカバー
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