フィログラフィックス――哲学はデザインできるのか?
GW明けに向けて頭のなかをスッキリさせる本を1冊。
ジェニス・カレーラス『フィログラフィックス』フィルムアート社
4月25日に発売されたばかりの新しい本だ。
フィログラフィックス,Philograpfics.
この本は名前の通り哲学をシンプルにデザインしたもの。
構造主義、決定論、実証主義、プラグマティズム、etc....
スペインの若手デザイナー、ジェニス・カレーラス氏が95に及ぶ上記のような哲学用語、主義をシンプルな一つのデザインにまとめあげている。
言葉では説明できないので一部の例を挙げてみる。虫眼鏡の場所だけで帰納主義と演繹主義の違いを表したこのグラフィックスは圧巻としか言いようがない。
思考を広げるグラフィックスのあらたな挑戦
本書には、哲学用語に関する詳細な解説は一切ない。1行程度の簡単な定義と、それらを表すグラフィックスのみで構成されている。したがって30分程度で読めてしまう。しかし、95もの哲学用語を1つずつデザインするという無謀な挑戦はこれまで見たことがないため、ページを捲るたびにワクワクする。
これまでのグラフィックスは誰もが知っているような具体的な概念を、絵や図によってさらにわかりやすく表現するというものがメインだったように思う。
しかし本書では言葉では表現してもなお抽象的である哲学の概念を絵にしてしまっているのだ。
シンプルでわかりやすい1つ1つのグラフィックスは、抽象概念を絵や図にするための大きなヒントになる。そして人間が決して言葉だけで世界を理解しなければいけない動物ではないということを思い知らせてくれる。
言葉では網羅できないスキマを埋めるデザインの役割
自分はこれまでデザインを体系的に学んだことがあるわけではないが、本書を読んで改めてデザインの役割というものを考えてみた。
デザインはヒトがモノを見やすく、使いやすくするためのツールである。哲学用語というのはヒトの脳にしかない概念である。構造主義も、エゴイズムも、アナーキズムも自然には存在しない。だからこそヒトは言葉でそれらを説明しようとする。
しかし言葉ですべてを説明できるのだろうか。言葉は世にある全てのモノやコトを網羅できるのだろうか。私はそうは思わない。例えヒトの脳の中で生み出された概念であっても、100%を言葉で説明するのは不可能だろう。そのスキマを埋めてくれるのがデザインであると私は思う。ヒトが見えていない部分を見せてくれる。それがデザインの役割だ。
本書は哲学の概念というこれまで目では見えていなかったモノを目で見せてくれるということ点で素晴らしい。
もちろんすべてのデザインに納得性が伴っているわけではないが、理解を助けるものであることは確かである。そのような意味で本書はデザインというものの可能性、重要性を改めて思い知らせてくれた。
週末が明けるのに向けて、脳を一度整理するのに本書を手にとって見てはどうだろう。
◆その他参考記事
哲学用語をシンプルなビジュアルで表現する | DHBR編集長ブログ|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー