世界で最もシンプルな組織論
2015年の読み納め。
サイボウズ株式会社の青野慶久氏によるサイボウズの創業から現在までを綴った本。
チームのことだけ、考えた。―――サイボウズはどのようにして「100人100通り」の働き方ができる会社になったか
- 作者: 青野慶久,疋田千里
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2015/12/18
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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サイボウズといえばサイボウズ Officeをはじめとした企業内の情報共有ツール、いわゆるグループウェアというカテゴリにおいて国内トップを走り続けている企業である。
2014年12月期の売上高は59億円程度で、一部上場企業でありながら売上高でいうとそこまでインパクトは大きくない。
したがって、単なる「起業物語」として本書を読んだとしてもさほど刺激的なものではない。起業物語としてなら、もっと爆発的な成長を遂げた大企業の物語のほうが遥かに刺激的で、面白い。
しかし「起業物語」ではなく、「組織論」「チーム論」として本書を読んでみると、サイボウズという企業のユニークさ、一貫性、論理性、そして「チームとは何か」「多様性とは何か」というこれまで複雑に語られてきたテーマの本質が、シンプルに見えてくる。
したがって今回は本書を「世界で最もシンプルなチーム論」として紹介してみたい。
青野氏が気づいたたった1つの"法則"
「人間は理想に向かって行動する」
サイボウズの社長に就任し、マネジメントについて迷いを抱えていた青野氏が多くの学びの中から見出した共通項が上記の言葉だ。
人間は何かしらの理想と現実の差を抱えて生きている。現実として「空腹」である人は、理想として「満腹」になりたいと願う。そこに差がある。この問題を解決するために「食べる」という課題を設定して行動する。そして、現実は理想に近づき、問題を解決する。とてもシンプルな法則だ。
つまり、人々の行動は、ある「理想」と現実との間を埋めるということに集約されるという。
本書で示される青野氏のチーム理論、サイボウズの人事制度の根幹にはこの理論が集約されている。
社内外で生じる問題はすべて理想と現実のギャップであるととらえ、理想は何なのか?現実は?と見極めることで課題を遂行していく。
チームの理想とは何か?この社員が考えている理想はなんだろう?
それらの問に答え続けていくことで青野氏は現在のサイボウズを築き上げてきたのだろう。
チームに必要な4つの要素
サイボウズはグループウェアを提供することで世の中にチームワークを生み出す企業に生まれ変わった。そこで青野氏はチームワークを定義しようと考え、その中でチームを構成する4つの要素にたどり着いた。
チームとは
・共通のビジョン
・構成員
・役割分担
・ 仕事の連携
の4つの条件で成立している。
中でもチームに最も必要なのは「共通の理想(ビジョン)」であると青野氏は説く。
多様な人材をチームで受け入れることと、チーム全体で、共通の理想を持つことは、実は矛盾しない。共通の理想があるからこそ、多様な人たちを受け入れ、1つの方向に束ねていくことができる。
そして、「チームワークがある状態」とは「効果」「効率」「満足」「学習」が高まっている状態であると分析している。
チームワークとは単なる作業の効率化ではなく、共通の理想に向かって役割分担をして臨むこと、そしてそれを通じ、効果、効率を高め成果をだし、構成員の満足度、学習度を高めることなのだ。
私もこれまで大なり小なり数多くのチームに所属し、リーダーを務め、チームワークがよくなるように動いてきたつもりだったが、ここまで明確にチームワークを定義することはできていなかった。
良いチームを作るためにはまず、共通の理想を作ること。これから自分でチームを率いる時があるとき、まずはこの原点に立ちたい。
チームに必要な"多様性"
本書における組織論・チーム論を読んでいく上で重要なキーワードがある。それが「多様性」だ。
よく組織には多様性が必要だと言われる。そこで連想されるものは女性や外国人等こあれまで自社には無かった要素の採用・活用などだ。それは自社には多様性がないという前提から始まっている。サイボウズの多様性へのアプローチは一味違う。
サイボウズはまず自社には既に多様性があるという前提で考え、一人ひとりの社員が全員日本人であろうと男性であろうと、彼らがより自分らしく働ける環境を提供しようとする。それを青野氏はダイバーシティではなく個性を受け入れる力、すなわちインクルージョン(包括性・一体性)という表現を行っている。
これは企業の経営者の多くは持てていなかった視点ではないだろうか?
個人の多様性を認め、活かすことでそれがモチベーションにつながり、ひいては共通のビジョンの達成に繋がる。
多様性を保つために必要な2つの"責任"
多様性を保つということは100人いれば100人の個性を認めるということだ。口で言うのは簡単ではあるが、組織マネジメントにとって簡単なことではない。組織の構成員の多様性を認めるには相当な覚悟が必要。
サイボウズでは多様性を認める代わりに社員の自立を求めている。サイボウズにとって自立とは「嘘をつかないこと(=公明正大)」そして「質問責任・説明責任」という言葉である。
公明正大はそのままで、多様な人間同士がコミュニケーションし合うには正直でなければならない。これこそが組織における最上の価値であると定義づけている。
そして次に必要なのが「質問責任」「説明責任」という2つの責任だ。
いくら多様な組織にあっても意思決定は常にしていかなければならない。そのためにその意思決定がどういう理想のもとに、どういう問題を解決しようと行われたのかを明確に説明しなければいけない、というのが説明責任。
そして質問責任は不満/疑問に思ったことがあるならそれに対して必ず質問をしなければいけないという、というもの。
個性を重んじる組織においては曖昧さ、グレーはあってはならない。常にそれぞれが組織に生じる意思決定に責任を持つことが、サイボウズにおける「自立」なのだ。
この理論は一見難しく聞こえるかもしれないが、組織論としては非常にシンプルなアプローチのように思える。
ダイバーシティ経営の失敗例
我が社には多様性がない!
↓
これまでと異なる人材が必要!
→女性・外国人等を採用!
↓
これまで所属していた人材の個性は生かしきれず、
モチベーションダウン
サイボウズにおける多様性・インクルージョン
組織はそもそも多様!
↓
個性を認めたほうがモチベーション・成果に繋がる!
↓
そのためには全員自立しないといけない!
→意思決定に責任を持とう!
↓
全員が自立し、個性を活かしながら意思決定に責任を持つ組織へ
ざっくりわかりやすくすると上記のようなイメージだ。
多様性について、本書の後半で青野氏は以下のようにも語っている。
我々は、人間をカテゴリー分けして考えることが多い。男性と女性、日本人と韓国人、バブル世代とゆとり世代などだ。カテゴリーに分けると概要をつかみやすくなるが、多様性を考慮しない議論になりがちだ。なかには男性っぽい女性もいれば、女性っぽい男性もいる。特に最近は多様性が増しており、「男性はこうだ、女性はこうだ」と決めつけて仕組みを作ると、実態と乖離して機能しない。
だから、いったんカテゴリーを忘れて、1人1人が全く違うものだという考え方に立ってはいかがだろうか。
・・・(中略)・・・
安易に分けて個性を見なくなった時、組織から多様性は消える。
まとめ
本書は表向けには、サイボウズの創業期から現在に至るまでを綴った本であるが、よくよく読んでみるとそれはシンプルな組織論であり、多様性についてまとめた本だということがわかる。
人々は理想に向かって必ず動く。リーダーはその法則を頭に入れながら、個性あるメンバーをマネジメントしていかなければならない。
多様な個性を活かし、チームワークを発揮できる状態にするには、「共通の目的・ビジョン」が必要だ。そしてメンバーが共通の理想に向かうための環境を整えなければならない。しかし、多様なメンバー全員に納得してもらう環境を構築することはできない。したがってメンバーには極力自立を重んじてもらい、リーダーとしては意思決定に説明責任を持ち、メンバーはそれに対する質問責任を持つ必要がある。
多様なメンバーがコミュニケーションを円滑にとるためには、嘘はあってはならない。そのため公明正大であることを最高の価値とする。
中々よくできたシンプルな組織論だ。
経営学の中にはもっとミクロな心理学的要素をとりいれた組織論やもっとダイナミックな組織論が存在するが、ここで示される組織論はそのどれよりもシンプルで、そしてシンプルさ故に、世の中のどの組織においても基礎をなすことができる組織論ではないだろうか。
「人間は理想に向かって行動する」
この基本原則に立ち返った時、自分の所属する組織内での問題、今目の前にいる人との人間関係、取引先との関係、それぞれのチームにおいて見えてこなかった問題が浮かび上がってくるのではないだろうか?
年の終わりにこの世界で最もシンプルな組織論、ご一読を。
チームのことだけ、考えた。―――サイボウズはどのようにして「100人100通り」の働き方ができる会社になったか
- 作者: 青野慶久,疋田千里
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